Memories of summer

(手塚 編)




不二の想いを知り・・・


不二を意識するようになって、もうどれくらい経ったのだろうか・・?

大石を想っていた日々に比べれば、当然少ない筈なのに・・・

俺の不二への想いは、その日々に比例する事無く強く不二へと注がれている。


不二覚えているか?

全国が終わったら・・・お前の気持ちに答えたいと言ったあの日の事を・・・

だが俺は・・・

九州に行っている間も、戻ってからもお前の事ばかり考えていた。

全国優勝

大石の為に果たしたいと思っていた俺の中の誓いのような思いは・・・

自分の為にそしてお前の為に掴みたい・・・

そんな風な思いへと変わっていったんだ。

不二・・・

お前はそんな俺の想いに気付いているだろうか・・・?



俺達は手に入れた。

優勝という二文字を・・・

しかし俺は測りかねているんだ・・・お前の俺への想いを・・・

気が付けばお前は俺の側にいてくれている・・・だがお前を見ていて気付いた。

お前の側にいる他の者の存在に・・・交友関係に・・・

お前が誰にでも優しいという事に・・・


不二・・・

お前はあの日と変わらず・・・俺の事を想っていてくれているだろうか?
















「んっ?アレ・・・?」



中学最後の夏休み、ようやく休みらしい休みが出来た俺は迷わず不二を誘った。

図書館へ

在り来たりだが涼しい場所でのんびり二人の時間を過ごそう・・

そんな思いで誘ったんだが・・・その途中で菊丸に会った。



「どうした?」

「前から走って来るのって英二じゃない?」



不二との会話を楽しんでいる途中、不二が不意に足を止めた。

俺は不二の視線を追う。



「ん?菊丸が?」



どうした?

そう言葉を続ける暇も無いぐらいの速さで、赤茶の髪が通り過ぎる。

不二は慌てて声をかけた。



「英二!!」

「ふ・・・・じ?」



菊丸は俺達の前を少し行きかけて足を止めると、不二を確認するように振り向きそのまま駈け寄って抱きついた。



「不二っ!!」

「英二。どうしたの?」



不二は抱きついてきた菊丸を受け止めそのまま頭をよしよしと撫ぜて問いかける。

俺はその姿に不快感を覚えた。


菊丸英二

大石のダブルスのパートナーであり恋人

不二がもっとも気を配る存在

不二の親友



「大石がさ・・・」

「大石が?」

「俺の事裏切った!」



いつも揉め事が起こると、当たり前のように不二に甘え・・相談し・・・

不二もその話に耳を傾ける。

それがどんな話でも・・・



「へぇ・・・大石が」



楽しそうに・・・



「あっ不二っ!今笑ったな!ホントなんだかんな!」

「わかってるよ。でも裏切ったなんて・・・」



そんな姿を何度も見かけて俺は、自分の中に大石の時とは違う何かが芽生えるのを感じていた。

自分でも思うようにコントロールできない感情・・・嫉妬だ。

当たり前のようにいつも気軽に不二に触れる菊丸

何でも相談する菊丸

大石の時は菊丸の存在は絶対的なもので、側にいても嫉妬より諦めの方が強かった。

だが不二は・・・不二は・・・


和やかに話す二人に痺れをきらした俺は一歩前に出た。



「いや不二。笑い事ではない。大石が裏切ったという言い方はどうあれ

 事は重大だという事なのだろう。そうだな菊丸」



早く話を進め、切り上げる為に・・・・



「えっ?あぁうん。そうそう!事は重大なんだよ!っていうか手塚いたんだ・・」



だが・・・菊丸は俺の存在に今頃気付いたようだ。

不二はそんな俺達の姿に笑いを堪えている。

俺は目線を外して咳払いをした。



「兎に角だ。何があったか話してみろ」

「えっ?あぁ・・・うん」



気を取り直してもう一度話を進めようとしたが、菊丸は先程の和やかな雰囲気から一転

歯切れが悪くなかなか話し出そうとしない。

それどころか俯き爪を齧り始めた。


どうしたというのだ・・・?


ジッと菊丸を見据えて待っていると、不二が菊丸の肩に手を置いた。



「英二。話さなくていいよ」

「不二・・・?」



菊丸は不思議そうな顔で不二を見ている。

俺も不二へと視線を向けた。


もう何もかもお見通しと言わんばかりの目をした不二を・・・



「頭を冷やす場所ならここをもう少し行った所に公園があったから、そこなんていいんじゃないかな?」

「・・・・・・・」



不二を見つめる菊丸に、不二が優しく微笑みかけた。

その眼差しがあまりに優しく・・・今度は胸の中に小さな痛みを感じた。



「ね。英二」

「う・・・ん。そうする。あんがと不二」

「いいよ・・・それよりがんばってね」

「うん!あっそれよりさ、二人は何処へ行くとこだったの?」

「僕達?図書館だけど・・・」

「図書館?」



勝手に進む二人の話、俺は不二から目が離せなかった。

あの一瞬で菊丸の事を全て理解してしまう不二


ひょっとして俺よりも・・・不二に一番近い存在は、菊丸じゃないのか?


そんな思いが広がった時、菊丸が徐に俺へと体を向けた。



「手塚」

「何だ?」

「図書館じゃなくてさ、他に行くとこないの?手塚だってやっと出来た休みなんだろ?

海とかさ、山とかさ、たまには不二を連れて行ってやれよ!

そんなだといつか愛想をつかれるぞ!」



いきなり菊丸に詰め寄られて、思考が定まらない。



「愛想・・・?」



愛想が何て言ったんだ・・・?

俺が眉を顰めると、不二が菊丸に詰め寄った。 



「英二。八つ当たりなら怒るよ」

「八つ当たりじゃねーよ。不二の代わりに忠告してやってんの」



忠告・・・?

不二の代わりに・・・?



「僕はそんな事頼んだ覚えはないけど」

「俺も頼まれた覚えなんてないよ」



俺を置いてまた微笑みあう二人

俺は菊丸へと視線を向けた。


あぁ・・そうか・・・そうだな・・・・



「んじゃさ。俺行くよ。サンキューな二人とも、じゃ!」



菊丸の存在に嫉妬している場合ではない。

それよりも・・・もっと大切な事があったな・・・


菊丸が走って公園へ向かった後、俺は不二へと視線を移した。



「良かったのか・・・話を聞かなくて」



不二は見えなくなってしまった菊丸を惜しむようにまだ公園の出口を見ている。



「まぁね。話を聞かなくても大体の事は想像がつくし・・・それに・・・」

「それに?」

「英二が爪を噛む時は、英二が自分に非があると思っている時なんだ。

だから今は話す事より自分の中で気持ちを落ち着ける事の方が先決という訳」

「そうか・・・」



やはり・・・お前にとって菊丸は特別な存在なのだな。



「手塚?」

「ん?」

「どうかした?」



「いや・・・・菊丸の事をよく理解しているのだな・・・」

「あぁ。そうだね。英二とはずっと同じクラスで一緒にいる時間も長いしね。

僕としても大石の次には英二の事をわかっているつもりだけど・・・」



菊丸の存在に嫉妬している場合ではない・・・

そう思うのにやはりその存在は妬けるものがある。

きっと不二は俺がこんな思いに駆られている事に気付いていないだろうが・・



「そうだったな。お前達はずっとクラスが一緒だったな・・・」



不思議そうに見つめる目に、俺は言葉が続かない。


いや菊丸だけではないな・・・

不二に近づく全ての者に妬いている俺がいる。


それなのに俺は・・・不二の優しさに甘えていた。

たいした努力もせず・・・

全国が終わった今もどうゆう形でお前に答えていいかわからずにいたんだ。

想いが強くなればなるほど、臆病になっていた。



「手塚。僕達もそろそろ図書館に行かない?」



菊丸の言う通りだな・・・

こんな状態でいては、いつか不二に愛想をつかれてしまうかも知れない。

俺の側を離れてしまうかも知れない。



「不二」

「何?」

「今から海に行かないか?」



だから・・菊丸に言われて・・・とお前は思うかもしれないが・・・

一緒に海へ・・・最後の夏に二人の思い出になるような場所へ行こう。



「行ってもいいけど・・・ひょっとして英二が言った事を気にしているの?

もしそうなら、気を使わなくていいよ」

「いや・・・気を使っているつもりはないが・・・確かに菊丸の言う事も一理あるからな。

たまの休みだ。いつでも行ける図書館より海に行くのも悪くないと思ったんだが・・・

どうだ?駄目か?」



やはり今の出来事の後じゃ・・・聡い不二には無理な話だな。

初めから目的地を海にしていれば・・・気を悪くさせる事もなかっただろうに・・・



「君がそう思うなら、僕は別に構わないけど・・・」



何・・・?いいのか・・・?



「よし。じゃあ決まりだな。駅に向かうぞ」

「・・・うん」



小さく頷く不二を横目に俺は早足で駅へと歩き出した。


不二・・・

優しいお前の事だ・・・・俺の発言に合わせてくれたのだろう。

乗り気じゃなくても・・・いつもそうしてくれるように・・・

自分の本当の思いは心の奥に閉まって・・・

だが俺は・・・お前のそんな気持ちをわかった上でも一緒に海へ行きたいと思っている。

不二・・・

俺は以前・・・全国が終われば、お前の気持ちに答えたいと言った。

だが今は違う・・・答えたいじゃない。

答えさせてくれ。

不二・・・俺はもうずっとお前の事を・・・・・・・



「手塚もう少しゆっくり歩いてよ」



遅れて歩いていた不二が俺の横に並ぶ、俺はそれを確認して少しだけ歩幅を緩めた。






以前不二編を上げた時に、手塚編も読みたいとコメントで頂いていて・・・


かなり遅くなってしまいましたが・・・ようやくUPできました!

コメント下さった方見てくれているかな?

見て頂けていたら・・・嬉しいのですが・・・

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